野菜花き研究部門

淡黄色

フラボノイドによる淡黄色

図14d オクラ

花にはかならずフラボノイドが含まれており、白い花でもよく見るとわずかに黄色を呈しています。フラボノイドは可視領域のほとんどの光を反射してしまうので無色ですが、紫色の可視領域の光をわずかに吸収するため、高濃度に貯まると淡い黄色を呈します。アオイ科に属するワタやオクラ(図14d)の淡黄色の花はフラボノイドにより発色しています。

カロテノイドによる淡黄色

一般にカロテノイドやベタレインは花弁に高濃度に貯まることが多く、花がこれらの色素により発色する場合は濃い黄色になります。淡い黄色の花色は、多くの場合フラボノイドによります。しかし、栽培品種の中には、まれにカロテノイドによって淡い黄色を呈している場合があります。

<マリーゴールド>
マリーゴールドの花は黄色から橙色をしており、白花の品種がありませんでした。19世紀のアメリカでは、白花のマリーゴールドの育種に懸賞金がかけられました。多くの育種家が白花を目指して育種しましたが、白い花を作ることはできませんでした。マリーゴールドの'ホワイトバニラ'(図25)という品種の花は白色に近いといわれていますが、カロテノイドをわずかに貯めていて、白色というよりは淡黄色です。「ホワイトバニラ」のような淡黄色の花では、多くのカロテノイドの生合成酵素遺伝子の発現が低くなっていることが報告されています。したがって、カロテノイドの生合成量が少なくなったため、淡黄色になったと考えられます。カロテノイドは光合成に重要な役割を果たし、植物が生きていくために必要な色素なので、生合成系は頑丈にできています。そのため、花弁で働いているカロテノイド生合成系を壊して白い花をつくるのは大変難しいのです。アントシアニンの場合は生合成系が壊れて赤花から白花が生まれることがよくありますが、カロテノイドの場合は変異が起こらないので、黄花から白花が生まれることはほとんどありません。

図25 マリーゴールドの花色とカロテノイド量。カロテノイド量の違いによって花の色の違いが生まれています

<キク>
キクに含まれるカロテノイド量は、カロテノイドを分解する酵素(カロテノイド酸化開裂酵素:CmCCD4a)によって調節されています。白色花弁ではCmCCD4a*遺伝子がたくさん発現し、合成したカロテノイドを全て分解してしまいます。一方、黄色の花弁ではCmCCD4a遺伝子が全く発現していないので、合成されたカロテノイドが分解されずにたくさん貯まります。淡黄色の花弁では、白い花弁に比べるとCmCCD4a遺伝子の発現が少なく、合成したカロテノイドを全て分解することができず、わずかに残っています(図16)

※斜体(CmCCD4a)で書かれている場合は遺伝子を表します。標準体(CmCCD4a)の場合はタンパク質を表します。

図16 キクの花弁のカロテノイド量と分解活性の関係
図17 葉と同じ組成のカロテノイドを貯める淡黄色の花。(写真左)トルコギキョウ「あずまの調べ」 (写真右)ペチュニア「プリズムサンシャイン」

<トルコギキョウ、ペチュニア>
多くの植物では、つぼみや咲き始めのころには緑色をしています。これはクロロフィルが含まれているためです。緑色の花の細胞には葉緑体が存在し、ルテインやβ-カロテンを主成分とする、葉と同じ組成のカロテノイドが蓄積しています。一般にはつぼみの時期のクロロフィルやカロテノイドは開花が進むに従い消えてしまいますが、消え方が遅く、花が咲いたときにも残り、淡黄色の花を咲かせる場合があります。トルコギキョウやペチュニアなどの淡黄色の花は、葉と同じカロテノイド組成をしていることから、つぼみの時期に貯めていたカロテノイドにより発色していると考えられます(図17)。キクやバラのように、濃い黄色の花は、開花する頃には花弁特有の組成のカロテノイドを生合成し、多量に蓄積します。一方、トルコギキョウやペチュニアでは、花弁特有の組成のカロテノイドを生合成する能力がないため、濃い黄色の花を咲かせる品種がありません。淡黄色の花は、黄色の花を目指して育種した結果、つぼみの時期のカロテノイドが残ったものが選抜されたものと考えられます。

専門家向け参考文献

トルコギキョウ
  • Nakayama, M., Miyasaka, M., Maoka, T., Yagi, M., Fukuta, N. (2006) A carotenoid-derived yellow Eustoma screened under blue and ultraviolet lights. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 75: 161-165.
ペチュニア
  • Kishimoto, S., Oda-Yamamizo, C., Ohmiya, A. (2018) Regulation of carotenoid pigmentation in corollas of petunia. Plant Mol. Biol. Rep. 36: 632-642.